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DX失敗を防ぐ鍵はUIUX—DXプロジェクトの落とし穴と成功への実践策
2025/02/09
【内容サマリー】
- DXプロジェクトの高い失敗率と原因:
- 日本企業のDXは60~80%が失敗
- 大規模案件の85%以上が遅延・予算超過し、約9割で不満が残る
- 主因: 要件定義不備、目的・要件の曖昧さ、新技術への過度な期待、経営層の関与不足、ユーザー視点の欠如など
- UI/UXデザインの重要性と効果:
- ユーザー視点を取り入れることでDX失敗リスクを低減
- 早期のUI/UXデザイナー参画により手戻りコストを抑制
- 業務効率やサービス満足度が向上し、成果を押し上げる
- UI/UX重視の成功事例とROI:
- りそなグループアプリ:500万超ダウンロード、「DX銘柄2020」選定
- note:レコメンドや投げ銭機能強化で月間アクティブユーザー6,300万超
- UX投資1ドルで100ドルのリターン(ROI約9,900%)との報告も
DXプロジェクトの失敗状況と典型的な問題点
日本企業におけるDX推進はしばしば困難に直面しており、プロジェクトの大半が当初の目標を達成できていないのが現状です。実際、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査によれば、大規模プロジェクトの85%でスケジュール遅延、同85%で予算超過が発生し、約9割の大規模案件で何らかの不満が残ったと報告されています (*4)。これはDXプロジェクトが計画どおり完了せず、期待した品質や価値を提供できないケースが非常に多いことを示しています。
(1)要件定義や計画の不備:
DXプロジェクトの失敗原因の多くは、初期の企画・要件定義段階に起因します。
ビジョンやKPIが不明確なまま着手した結果、何をゴールにすべきか定まらず方向転換を余儀なくされたり、要件抜け漏れによる追加開発が発生しがちです。
実際IPAの分析でも、失敗したシステム開発プロジェクトの約半数は要件定義不備に原因があるとされます。要件の「詰め」が甘いと後工程で問題が表面化し、最終的に頓挫するリスクが高まります.
(2)新技術への対応力不足:
DXではAI・IoT・クラウドなど先端技術を用いるケースが多いものの、それらを使いこなしビジネス価値につなげられる人材が不足しがちです。社内に実績やノウハウが乏しいまま最新技術を導入すると、開発難度や不確実性が高くプロジェクト停滞の一因となります。
また経営層がバズワードに飛びつき、現場の準備が整わないまま「とにかくAIを入れよう」などのように技術ありきで進めてしまうケースも失敗を招きやすいと言えます.
(3)組織文化・プロセスの障壁:
日本企業では従来のウォーターフォール型開発や稟議文化が根強く、DXが求めるスピードについていけないことがあります.意思決定に時間がかかったり、現場とIT部門・経営陣の調整が難航するうちに市場や顧客ニーズが変化し、タイミングを逸してしまうのです.
さらにDXは複数部署横断の変革になるため、部門間の連携不足や経営層との信頼関係の欠如も大きな障壁です.現場・IT・経営が足並みを揃えられず対立が生じると、プロジェクト推進は困難になります.
(4)ユーザー視点の欠如:
DX本来の目的はデジタル技術によってユーザー(顧客や従業員)に新たな価値や体験をもたらすことですが、それが見落とされているケースも多々あります.技術導入自体が目的化してしまい、肝心の利用者ニーズに合致しないサービスを作ってしまうと、定着せず成果も出ません.
DX成功にはユーザー中心のアプローチが不可欠あり、これを欠いたプロジェクトは顧客にも社内ユーザーにも受け入れられず失敗に終わりがちです.
以上のような複合的要因から、DXプロジェクトは途中で頓挫したり、期待した効果を上げられないまま終わる例が後を絶ちません.
中には数十億円規模の投資損失を出した失敗事例も報告されており(例:ある大手企業ではDX失敗により150億円超の損失) (*1)、DX推進の難しさとリスクの大きさが浮き彫りになっています.
DXプロジェクトにおけるUI/UXデザインの役割と貢献
前述の失敗要因への対処策として近年強調されているのが、UI/UXデザイン(ユーザー体験設計)の重要性です.多くの企業はDX推進においてテクノロジー面ばかりに注目しがちですが、ユーザーエクスペリエンス(UX)の役割を過小評価することが最大の過ちの一つだと指摘されています.
DXによる真の変革を成し遂げるには、最新技術以上に最終ユーザーにとっての使いやすさや価値を重視するアプローチが求められるのです.
UI/UXデザインがDXプロジェクトの成功に寄与するポイントを具体的に見てみます:
(1)ユーザー中心設計でユーザビリティ向上:
UI/UXデザイナーはユーザー調査やユーザビリティテストを通じて、現場の声・顧客のニーズを把握し、それを製品・システムの設計に反映させます。その結果、システムが「ユーザーにとって使いやすいもの」となり、導入後の定着率が高まります.
例えば業務システムで操作手順が直感的に分かりやすくなれば、従業員の戸惑いや抵抗感が減り、利用開始までの教育コストも削減できます.
顧客向けサービスでも、UXを最適化することで利用頻度や継続率(リテンション)が向上し、ビジネス成果に直結します.実際、使いにくくニーズに応えない製品はユーザー離れを招き売上低下につながるため、DXでも「使いやすさ」は成否を分ける重要要素です.
(2)要求の具体化と関係者の合意形成:
UI/UXデザイナーは要件定義フェーズからプロジェクトに参画し、ユーザー視点で業務フローや画面のプロトタイプ(試作品)を作成できます.ワイヤーフレームやモックアップといった視覚的なアウトプットにより、経営者・現場・開発者など関係者間で完成イメージを共有しやすくなります.
これにより「認識のズレ」から生じる手戻りを防ぎ、チームの合意形成をスムーズにします.
特にDXでは正解が見えづらいため、仮説に基づき試行錯誤を繰り返すプロセスになりますが、UXデザイナーが作るプロトタイプ上でユーザーテストを実施することで早期にユーザーの反応を得て、方向性を検証・修正できます.
こうしたUIUX先行での反復型アプローチは、従来型の要件固め過ぎによる失敗を減らし、ユーザーニーズに合致した解決策に磨き上げるのに有効です.
(3)開発リスクとコストの低減:
UXを軽視したプロジェクトでは、リリース後に「使えない」ことが判明して作り直しになるケースも少なくありません.その場合、後からの改修費用は初期段階で直す場合の何十倍にも膨らむとされています.
UIUXデザイナーが初期段階から関与し、ユーザー視点での問題検出・改善を重ねておけば、重大な設計ミスを事前に潰せるため手戻りコストを大幅に削減できます.
例えばプロトタイプ段階でUIの不備に気づけば修正は容易ですが、完成後のシステムで同じ修正を行うのは非常に困難です.UXデザインへの投資は見えにくいバグや使い勝手の問題を早期に発見し,"後で作り直す"リスク自体を低減する保険の役割も果たします. 結果として、プロジェクト全体の納期遅延や追加予算発生を防ぎ、品質目標の達成にも寄与します.
(4)エンゲージメントと付加価値の創出:
優れたUXはユーザーのエンゲージメント(積極的な利用・参加)を高め、DXが狙うビジネス価値の創出につながります.
BtoCサービスではUX向上によってユーザーの利用時間や頻度が増加したり、アクティブユーザー数が伸びるのは想像しやすいですが、社内向けDXにおいても、従業員が使いたくなるような洗練されたUIで業務システムを提供すれば、新しい業務プロセスへの移行が円滑に進み生産性が向上します.
要は、DXを単なるシステム刷新に留めず「ユーザー体験の改革」と捉えることで、初めて本質的な成果(業務効率化や顧客満足度向上による収益増)を得られるのです.
このようにUI/UXデザインはDXプロジェクトの各段階で重要な役割を果たします.
要件定義段階ではユーザー調査によるニーズ把握、設計段階ではプロトタイピングによる合意形成、テスト段階ではユーザビリティ評価による改善提案、導入後もユーザーフィードバックを分析した継続的なUX改善など、UI/UXデザイナーはDX推進の全フェーズを通じて品質と価値の担保に貢献できます.結果としてプロジェクト成功率を高め、DXによる変革効果を最大化することにつながります.
UI/UXを重視したDX成功事例とUI/UX投資の効果
日本国内でも、UI/UXに注力したことでDXプロジェクトが成功を収めた例が出始めています.その中から代表的な事例と、UI/UXへの投資対効果に関するデータを紹介します.
事例1:金融業:りそなグループのDX(銀行サービスのアプリ化)
りそなホールディングスは従来の銀行サービスを抜本的に変革すべく、「銀行を持ち歩く」をコンセプトにスマートフォンアプリを開発しました.
このりそなグループアプリは企画段階からUI/UXデザインを重視し、ユーザーが直感的に操作できる画面設計や、AIを活用した資産アドバイス機能など利便性の高い体験を提供しています.その結果、2022年時点で500万ダウンロードを突破し、多くの顧客に利用されるサービスへ成長しました.使いやすさと付加価値の高さが評価され、経済産業省が主導するDX優良事例の表彰「DX銘柄2020」にも選出されています (*6).
この事例は、金融業のDXにおいてもユーザビリティとUX向上が顧客のデジタルシフトを促し、大きなROIを生むことを示しています.実際、銀行窓口や従来ATMで行っていた取引がアプリに置き換わったことで、顧客は便利さを享受しつつ、銀行側もオペレーションコスト削減や新サービス展開による収益機会拡大という成果を得ています(具体的なROI金額は非公表ながら、高い顧客エンゲージメントが収益増加に貢献したと推測されます).
事例2:メディア業:note(コンテンツプラットフォーム)のUX強化
コンテンツ配信プラットフォーム「note」では、サービス成長の過程でUX向上を目的とした機能追加を積極的に行いました.その一例がレコメンド(記事推薦)機能やクリエイター支援の投げ銭機能です.
レコメンド機能によりユーザーは興味関心にマッチした記事を次々と発見でき、閲覧体験が向上しました.また投げ銭機能によりユーザーはお気に入りの投稿者を直接支援できるようになり、投稿者側のモチベーションも高まりました.
これらの施策はユーザー体験の質を高め、結果としてプラットフォームの月間アクティブユーザー数は6,300万を超える規模に達しています.
noteの事例は、DXの文脈で既存サービスにデジタル機能を追加しUXを磨くことが、ユーザー数拡大やエンゲージメント向上といった形で事業成長につながる好例です.ユーザー視点の改良がダイレクトにROI(たとえば有料会員収入や広告収入の増加)に跳ね返ってきたと言えるでしょう.
UI/UXへの投資対効果(ROI)データ:
定量的な裏付けとして、UI/UX投資のROIに関する有名な調査結果があります.
調査会社Forresterは「UI/UXデザインに投資した1ドルあたり100ドルのリターンが得られる」、すなわちROIが9,900%にも上ると報告しています.この驚異的な数字は業種やプロジェクトによって幅はあるものの、UX向上が収益にもたらすインパクトの大きさを物語っています.
例えばECサイトにおけるUI改善でコンバージョン率が飛躍的に向上したり、業務システムのUX改善で作業時間短縮により人件費削減・生産性向上が実現するといった事例は枚挙に暇がありません.UXに配慮せずリリースした製品を後から作り直すコストや、ユーザー離れによる機会損失を考えれば、UXデザインへの適切な投資は結果的に最もコスト効果の高い投資とも言えるでしょう.
以上のように、日本国内のDXプロジェクトの現状と課題を踏まえると、UI/UXデザインの果たす役割は極めて大きいことがわかります.
高い失敗率に悩むDX推進において、ユーザー中心の発想でサービスやシステムを設計することが成功へのカギとなります.UI/UXデザイナーは単なる画面の見た目を整える存在ではなく、ユーザー価値を創出しプロジェクトのROIを最大化する戦略的パートナーです.
最新のデータや事例が示す通り、UI/UXを重視することがDXプロジェクト成功率の向上につながり、ひいては企業の競争力強化と持続的成長に直結するのです .
【参考情報】
*1 DX失敗のメカニズム - pro-connect.jp
*2 DXプロジェクト推進に失敗が多い4つの理由 - mirai-works.co.jp
*3 DXプロジェクト推進に失敗が多い4つの理由(続編) - mirai-works.co.jp
*4 大規模プロジェクト遅延報告 - pro-connect.jp
*5 DX推進担当者に任命されたら - dx-portal.biz
*6 りそなホールディングス:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」の選定について