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UIUXデザイナーとの協働で実現する業務システムの最適アーキテクチャ
2025/02/09
本記事では、以下の視点から業務システムのUI/UX設計のポイントについて解説します。
- システムアーキテクチャとの整合性
- デザインシステムの活用
- ローコード/ノーコード開発時の制約と対策
1. システムアーキテクチャとの整合性
UI/UX設計とアーキテクチャの関係
業務システムのUI/UXを設計する際は、バックエンドを含めたシステムアーキテクチャ全体との整合性を意識する必要があります。例えば、フロントエンド(UI)の構造をシステムのモジュール構成に合わせてモジュール化・コンポーネント化することで、開発チームごとの分担を明確にし、機能追加や変更をしやすくできます。UIの各部分を独立したコンポーネントとして開発・テストできれば、大規模なシステムでも柔軟で効率的な開発が可能になります。
SPAとMPAの選択
Webアプリケーションの構築方法には、単一ページで動的に画面を更新するSPA(Single Page Application)と、複数ページに分けて画面遷移するMPA(Multi Page Application)があります。どちらを採用するかはシステムの特性によって異なり、UI/UXにも影響を与えます。
一般に、SPAは画面遷移をスムーズにしリッチなユーザー体験を提供できますが、初回読み込みの負荷やSEOへの弱さといった課題もあります。一方、MPAはページごとにサーバーから描画するため安定した動作が期待でき、内部業務システムなどではMPAの方が適しているケースも多いです。実際、モバイル向けやシンプルなWebアプリではSPAが選ばれる一方で、社内システムやB2B向けアプリケーションではMPAが採用されることが多いと報告されています。
プロジェクトマネージャーは、システムの利用シーン(モバイル中心かPC中心か、SEOが必要か等)に応じてSPA/MPAを選択し、UI設計方針を決める必要があります。
アーキテクチャ設計手法への影響
UI/UXの要求はシステム設計の手法にも影響します。例えばリアルタイム性が求められる画面では、バックエンドとの非同期通信やイベント駆動アーキテクチャの採用を検討することになります。また、UI側で複雑な処理を行う場合はフロントエンドフレームワーク(ReactやAngularなど)のコンポーネントベース構造を活かし、ビジネスロジックとの分離(クリーンアーキテクチャやMVCパターンなど)を明確にすることが重要です。
UI設計者とシステムアーキテクトが密に連携し、「この画面の実現にはどのようなデータ構造や処理体系が必要か」を擦り合わせることで、ユーザーにとって使いやすいUIと保守性の高いアーキテクチャの両立が可能になります。
2. デザインシステムの活用
デザインシステムとは
デザインシステムとは、UIのデザインルールやコンポーネント部品、ガイドラインなどを体系化し一元管理する仕組みです。ボタンやフォームといったUIパーツのスタイルから色使い、タイポグラフィ、レイアウト原則まで、デザインに関するルールを包括的にまとめています。大規模なプロダクトでは複数のデザイナーや開発者が関わるため、デザインシステムを導入することでデザインのばらつきを防ぎ、一貫性のあるユーザー体験を提供できます。
デザインシステム導入のメリット
業務システムで既存のデザインシステム(例えばMaterial DesignやAnt Design)を活用することには多くのメリットがあります。
一貫したユーザー体験の実現
あらかじめ定義されたスタイルやコンポーネントを使うことで、画面ごとの見た目や操作感に統一性が生まれます。複数人でデザイン・開発を行っても、部品の再利用によってデザインのブレを防ぐことができるため、ユーザーはどの画面でも一貫した操作性を感じられます。
開発効率と品質の向上
デザインシステムに沿ったUI開発では、使い回し可能なコンポーネントを組み合わせるだけで画面を構築できる場合が多く、ゼロからデザインを起こす手間が省けます。これにより実装スピードが向上し、コンポーネント自体は十分にデザイン検証されたものを使うためUXの最低ラインが確保されます。また、デザイン変更が生じてもシステム全体で統一して修正できるため、大規模な変更にも柔軟に対応できます。
チーム間の共通認識
デザインシステムはデザイナーだけでなく、エンジニアやPMにとっても共通言語となります。ガイドラインが一元管理・共有されていることで、デザインの意図をチーム内外に伝えやすくなり、関係者同士のコミュニケーションが円滑になります。例えば「このフォームはデザインシステムの標準コンポーネントを使おう」といった会話で意思疎通が図れ、認識違いによる手戻りを防ぐことができます。
これら既成のデザインシステムを導入することで、ゼロからデザインルールを策定する時間を省きつつ、業界で蓄積されたベストプラクティスを取り入れることができます。ただし、自社のブランディングに合わせた調整(色やフォントの統一など)は必要になるため、UIUXデザイナーを交えてデザインガイドラインを拡張・運用していく体制が重要です。
3. ローコード/ノーコード開発の制約と対策
近年、専門的なプログラミング知識がなくてもアプリケーション開発ができるローコード/ノーコードプラットフォームの利用が広がっています。業務システムにおいても、市民開発(Citizen Development)を推進する目的でこうしたプラットフォームを導入するケースがあります。ただし、ローコード/ノーコードでUI/UX設計を行う際には、いくつかの制約があることに注意が必要です。ここでは主な課題とその対策を解説します。
主な制約
カスタマイズの限界
ローコードツールでは用意されたテンプレートやパーツを組み合わせてUIを構築するため、細かなデザインや挙動のカスタマイズには制限があります。プラットフォーム標準で提供されない特殊なUIや機能は実装が難しく、思い描いたとおりのUXを実現できないことがあります。外部システムとの連携についてもプラットフォームが対応していないと困難です。
パフォーマンスやスケーラビリティの問題
ローコード/ノーコードで作られたアプリケーションは、内部的にはプラットフォーム上で動作するため、その性能がプラットフォームのインフラに依存します。大量のユーザーがアクセスしたり複雑な処理を行ったりすると、プラットフォーム側で処理が追いつかず動作が重くなる場合があります。特にSaaS型のローコード製品では利用者側でサーバー性能を制御できないこともあり、予期せぬパフォーマンス低下がユーザー体験を損ねるリスクがあります。
ベンダーロックインと拡張性
ノーコード/ローコードツールに依存しすぎると、そのツール特有の制約に縛られます。将来的に他のシステムと統合したり、プラットフォーム外の新技術を取り入れたりする際に、思うように拡張できない懸念もあります。例えば、プラットフォームが提供するAPIの呼び出し回数やデータストレージに上限があり、大規模化に向かないケースもあります。
制約への対策
標準コンポーネントの効果的活用
プラットフォームが提供するUIコンポーネントやテンプレートを最大限に活かし、その範囲内でUXを向上させる工夫をします。スタイルガイドに沿ったカラーリングやレイアウト調整など、小さなカスタマイズでユーザビリティを向上できるポイントを見極めましょう。プラットフォーム標準機能内で実現可能な要件にフォーカスすることで、無理なカスタマイズによる不安定さを避けることができます。
外部サービスとの連携による機能拡張
ローコード/ノーコードで実現が難しい高度な処理やスケーラビリティの要求については、外部のサービスやAPIを併用する戦略があります。例えば、プラットフォーム上で行えないデータ集計処理をサーバーレス機能(クラウド上のFunctions等)で実行し、その結果をローコードアプリに取り込むといった方法です。実際、ローコードでは行えない処理や性能上の制限を回避するために外部サービスを組み合わせることが可能であり、これによりプラットフォームの制約を補完できます。
将来を見据えた設計
ローコードでプロトタイプを作成し、後に必要に応じてコードベースの開発(プロコード)に切り替える計画を立てておくのも一つの方法です。早期にUI/UXの検証をローコードで行い、基本要件が固まった後で制約を感じる部分のみカスタム開発に置き換えることで、リスクとコストのバランスを取ることができます。プロジェクトマネージャーはこのようなハイブリッド開発戦略も視野に入れて、最適なアプローチを判断すると良いでしょう。
おわりに
業務システムのUI/UX設計は、単に画面を美しくする作業ではなく、システムアーキテクチャや開発プロセス全体に影響を及ぼす重要な工程です。プロジェクトマネージャーやビジネス関係者にとって、UI/UXの決定は使いやすさだけでなく開発効率や将来の拡張性にも関わるポイントであることを理解する必要があります。
本記事で解説したように、UIUXデザイナーがバックエンドエンジニアと密接に連携し、適切なアーキテクチャとの整合性を保ちながら、デザインシステムを活用して一貫性と効率を高めることが、優れた業務システムのUI/UXを実現する鍵となります。
また、ローコード/ノーコード開発を採用する場合でも、その制約を正しく認識し工夫と対策を講じることで、ビジネスニーズに迅速に応えつつ良好なユーザー体験を提供できます。
このように、UI/UX設計はシステム開発の成功や満足度に直結するため、「技術」と「ユーザー視点」の橋渡し役としてUIUXデザイナーの果たす役割は大きいと言えます。開発チームとビジネス部門のコミュニケーションを図りつつ、専門的な知見をプロジェクト全体の意思決定に活かすことで、UIUXとシステムアーキテクチャが調和した質の高い業務システムを構築していきましょう。